「ごほんですよー」アーカイブ

『風花帖』 葉室麟 

江戸時代後期の文化  年に起こった小倉藩のお家騒動いわゆる「白黒騒動」を題材に、直木賞作家・葉室麟さんが書き上げてくださったのが、本作品『風花帖』(2014年)です。

昨年10月には、朝日新聞出版から文庫版として刊行されました。解説は、わが北九州市立文学館・今川英子館長が書いておられます。

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主人公の小倉藩勘定方・印南新六は、風采は上がらないが夢想願流という武道の達人。あるとき結婚を許されるはずだった吉乃が上級武士に襲われかけるのを阻止、御前試合でその相手の肩を打ち砕いて三年間の江戸城詰めになります。

戻ってくると、吉乃はすでに婚約、祝言を上げることになりますが、新六はかつて「生涯をかけて吉乃を守る」誓いを履行。藩内を二分するお家騒動に翻弄される吉乃の婚家・菅源太郎氏の側に立って奮闘していきます。

最終的には自害を余儀なくされる新六。しかし、それは今は人妻となったひそかに愛する吉乃をひたすら守るための覚悟の末の行動でした。

雪が風花となって舞う中、自害した新六を前に吉乃は立ち尽くします。

 

小倉城は1602年に、戦国大名・細川忠興が築城し、細川氏の肥後移封後は、1632年に譜代大名・小笠原忠真が封入。以後、幕末まで小笠原氏の居城でした。

この間、約260年にわたる歴史と文化が蓄積されてきたはずでしたが、1866年に長州藩との戦闘で劣勢となり、小倉藩が小倉城を自ら焼失させて退却したことから、様々な歴史的資料が失われたと考えられています。

また、自ら城を焼いて逃げたというイメージが、小倉の人々にはどこか負い目となったのか、戦後、天守閣が再建(正確な復元ではありませんでしたが)された後も、誇るべき「小倉城の歴史と文化」を前向きに評価し再発見する動きはあまり強くならなかった感があります。

 

でも、いまやその方向を転換する時がきました!

かつて小倉城は独特の唐造りの天守閣を頂く「天下の奇城」でした。

宮本武蔵や佐々木小次郎が出入りし、歌舞伎の題材にもなりました。

城内には九州探題として特に許された沢山の桜の木がある「桜の城」でしたし、御遊所としての御花畑もありました。

小倉城を舞台に、作品に取り上げられた「お家騒動」をはじめ、様々な出来事や市井の人々の生活がありました。

小倉城にまつわる歴史や文化を改めて発掘し、市民の誇るべき資産として理解・活用することは、いま大変意義のあることだと私は考えています。

 

そんな中、江戸時代の小倉藩での「白黒騒動」を題材に、ひたむきな愛を描いた葉室麟さんの作品が文庫版で登場しました。大変ありがたいことですし、市内外の多くの方々にお読みいただけることを願っています。

 

葉室麟さんは、これまでの作品の中で、死を賭してひたむきに生きる武士の姿を様々に描いて、高い評価を受けてきました。(本HPでも『秋月記』のご紹介をしています。)

今川館長が解説で指摘されているように、葉室さんは小倉のご出身。これは葉室版の無法松の一生(『富島松五郎伝』)なのではないか。葉室さんはいつか松五郎のようなひたむきな無償の愛を描きたかったのではないか。そんなことを考えながら、この作品を楽しむこともできるのではないでしょうか。

(朝日新聞出版)

『五月の風のように』 みずかみさやか詩集 葉祥明・絵

今回ご紹介するのは、みずかみさやかさんの個人詩集。昨年末に出版されたばかりです。

「ジュニアポエムシリーズ」ということで「子どもにわかる言葉で真実の世界を歌う個人詩集のシリーズ」と題されています。 

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著者のみずかみさやかさんは、北九州市ゆかりの詩人・故みずかみかずよさんの娘さん。

みずかみかずよさんは、北九州市の児童文学同人誌「小さい旗」を中心に活躍され、現代児童文学のなかで、少年詩というジャンルを世に広められた功績者で、その作品は教科書などにも掲載され、今も多くの子どもたちに親しまれています。

 

子どもたちにわかりやすい言葉で詩を創り、作品の力で文学的魂を伝えていくことは大変むつかしい作業だと思います。

「子どもと詩」については、フランス文学者の鹿島茂さんが編著書『あの頃、あの詩を』(文春新書2007年)の中で指摘されたように、『暗い15年戦争の時期を間に挟んだ、明るく希望にあふれる二つの奇跡的な時代に生きた親と子の世代が、そうとは意識しないで共同で作り上げた「タイムカプセル」』としての「感動の詩の時代」もありました。(私もその恩恵を受けた一人でもあります。)

また、かつて竹中郁さんらが大阪を中心に永年続けられた「雑誌きりん」のように、子どもたちが自身が詩を書き、作品化することで、文学的価値を創り出す活動もありました。

いずれも難しいけれど、子どもたちの心の底に、「詩」という形式を通して文学的魂をはぐくむ活動は、これからも数々の試みがなされていくことでしょう。

 

みずかみさやかさんの本作品で、その試みがどう成功しているかについては、ぜひどうぞお手に取っていただくことをお勧めいたします。

 

私自身は、本作品が「亡き父と母に捧げます」とされているように、大好きな父平吉さんや母かずよさんとの心の交流を表現した作品に感銘を受けました。

何気ない暮らしの思い出の中に、暖かく描かれたご両親への思いは、きっと今の子どもたちの心にも滲み入るのではないかと思います。

おすすめは「小学校中学年以上」となっています。

(銀の鈴社刊)

 

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