「ごほんですよー: 2015年2月」アーカイブ

「長谷川町子」 ちくま評伝シリーズ<ポルトレ>

今回の子どもの本は、長谷川町子さんの評伝について取り上げます。

「サザエさん」は、ギネス記録となるくらい永年テレビアニメとして現在まで放映されているので、日本人で知らない人はいないといわれるほどの国民的人気マンガです。

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でも、1946年にスタートした新聞連載の4コマ漫画「サザエさん」が6477回もの連載を終えたのは1974年のことですから、現在の中高生の皆さんは、4コマ漫画のサザエさんを見たことがないはずですね。

 

サザエさんでは、長谷川町子さんが疎開先の福岡(現在の早良区西新あたり)に母と三姉妹ですんでいたころ、毎日のように海岸を散歩していたため、登場人物がすべて海にちなんだ名前になったのだそうです。(実は私も、サザエさんが登場した10年ぐらい後の百地海岸の風景を知っておりまして、のんびり散歩する長谷川町子さんの姿が目に浮かぶようです。)

この本では、こうしたサザエさん登場のいきさつや、女性で初めてプロの漫画家となった長谷川町子さんのその後の活躍ぶり、大胆不敵な行動家の母・貞子さんなど家族の奮闘など、成功ばかりではなく、失敗も苦悩もある人気漫画家の評伝として、誰にも分かりやすく描かれています。

中高生の皆さん、この評伝シリーズでは、<アップルをつくった天才>スティーブ・ジョブスや、<ドラえもんの生みの親>藤子・F・不二雄さんをはじめ、みなさんの良く知っている人たちも数多く登場します。書店などでぜひ一度手にとって目を通してみませんか。

 

蛇足ながら、

先日、市議会で準備中の「子ども読書活動推進条例」案について意見交換をしていたところ、中高生など向きの図書の呼び方について、若い議員仲間から「ヤングアダルトっていう呼び方には、違和感があります」との声があがりました。「アダルト」の語感が、どこか卑猥な響きに受け止められるようでした。

確かに、現実の読書活動では工夫も必要なのかも知れませんね。

ただ、公共図書館等の児童サービスを語る時、特に項目を設けて「ヤングアダルトサービス」について検討しなければならないほど、中高生の読書ばなれが深刻だと懸念されています。

子どもたちの年齢が上がるにつれて読書離れが強まるのは、どこに問題があるのでしょう。家庭や学校での環境の変化?ゲームの広がりなどデジタル化の影響なのでしょうか。

中高生向けの書籍が意外に少ないというのも原因の一つかもしれません。

そんな中で、中高生向けに近現代の伝記シリーズとして発売されたのが「ちくま評伝シリーズ<ポルトレ>」です。

「美辞麗句だけではない、人物の内面に一歩踏み込んだ中高生向きの内容に。人物から時代背景や文化を学ぶ「調べ学習」にも使えるように。また、「キャリア教育」としても有効なものに。読書の入り口になるよう、造本にもこだわりを。(ポルトレ編集長)」と大変意欲的です。ぜひ成功を期待したいと思います。

「ひみつの王国」 評伝 石井桃子

クマのプーさんやピーターラビット、うさこちゃんなど、子どもの本に登場する主人公たちに、子どもの頃から親しんできた方も多いことでしょう。

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でも、これほど多くの子どものための作品群を翻訳・紹介し世に送り続けた石井桃子という人物像について、これほど知られていない人も珍しいのではないでしょうか。

子どもの頃、石井桃子さんの作品に親しみ、畏れ多くも自分の娘の名に「桃子」と付けさせていただいたほどの?私でさえ、その実像を知る機会はほとんどありませんでした。

 

この本の著者・尾崎真理子さんは、石井桃子さんが「あふれる文学的才能と経験に恵まれながら、後半生をこの国の子どもの本に捧げたのはなぜだったのか。もしかしたら、それはあの戦争にまつわる出来事に起因していたのではなかったか」と問いかけ、その生涯にまつわる様々な疑問を、生前の石井桃子さんへ直接ぶつけたほか、彼女の作品で育ったことを自負する新聞記者らしい詳細な調査によって石井桃子さんの実像に迫りました。

 

現さいたま市浦和区で、11人の家族が暮らす商家の5人姉妹の末っ子、内気で、はにかみ屋の幸せな子ども時代。

英語を活かし、文芸春秋社の創始者であり大作家の菊池寛宅でのアルバイトを契機に、文芸春秋社・新潮社・岩波書店の編集者と続く多くの業績と、きらびやかな交流。

後の首相・犬養毅邸に文芸春秋社から派遣されて本の整理にあたっていた石井桃子さんが、クリスマス・イブに招かれた際の「魔法にかかった」ような「クマのプーさん」との出会い。

戦争になだれ込む直前の、はかなく愛おしい時代を享受した青春時代。石井桃子さんの作品「ノンちゃん雲に乗る」は、ひそかに隠されたある兵士・恋人への手紙が下地だったと尾崎さんは解明します。

戦争へ加担した悔悟とその封印。女だけの疎開と開墾開拓・ノンちゃん牧場。子どもの本の編集と翻訳の日々。家庭文庫など子どもの読書活動の実践、等々。

2008年に101歳で亡くなるまでに到る石井桃子さんの多大な業績と足跡を、捉え尽くすことは、おそらく至難の業というべきでしょう。

 

石井桃子という人がいなかったら、日本における児童文学の成立は時を逃し、子どもの本の世界が今よりもっと味気ないものとなっていたかもしれないことだけは間違いありません。

 

尾崎さんは、「子どもの本で埋め尽くした書架で前面を固めた、ひみつの王国」のような石井桃子さんの生涯に「歩みを進め」た、と書いています。

この本は、親しい人にさえ自らについて語ることのなかった児童文学の巨匠・石井桃子さんの「王国」に分け入ることのできた、ほとんど唯一無比の評伝と言って良い労作と言えるでしょう。

 

ところで、尾崎さんは(石井桃子さんの文章を)「読みながら、私は朝日新聞朝刊の四コマ漫画を連載していた、長谷川町子のことを思いだした。長谷川町子ともう一人、作詞家の岩谷時子のイメージもどこかダブる。・・・三人の売れっ子の中年女性たちは、髪を地味に後ろでまとめ、そろって眼鏡をかけていた・・・化粧っ気はないのに品があって頭が良さそうで、華やかな仕事をしているのに非常にお堅い人々のように見えた」とも書いています。

実は、私にも石井桃子さんと長谷川町子さんとはイメージがダブって見えていました。

高い評価を受けつつも自分を語らず、身を削るような仕事をこなし続けた女性たちの日々には、大正・昭和・平成と激動の時代を過ごした自ら個人の経験と思いを白日にさらし、詳細に表現する余裕は、持ちたくても持つことなどできなかったのかも知れません。  尾崎真理子著 新潮社刊

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