「ごほんですよー: 2018年1月」アーカイブ

『雨ふる本屋』 日向理恵子 作 童心社刊

小学校何年生のころだったのでしょう、雨降りの日、誰もいない学校の廊下からぼおーっと校庭を眺めていたことを覚えています。廊下は板張りで、湿った木の匂い。とても静かな中で、どこかでカサコソっと生き物の気配がしていましたっけ。

古いつくりの街の図書館は、ただでさえ静かなのに、雨の日に入ってみると、いっそうしーんとしていますね。

本棚の奥に入っていくと、ひょっとしたらどこか別の世界につながっている秘密の扉があるかもしれません。

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この物語の主人公・ルウ子は、雨宿りにかけ込んだ市立図書館の中で、妹のサラをびっくりさせてやろうと道で見つけたカタツムリに案内されて、秘密の通路から「雨ふる本屋」に入ります。

 

雨降りの日の本屋さんではなくて、本屋さんの中に雨がふっているのです。

そこには絶滅したはずのドードー鳥の店主・フルホンさんや、助手の妖精使いの舞々子さんと妖精たち。でもフルホンさんは大きな問題をかかえていました。

雨ふる本屋さんの本は、人間に忘れられた物語、「おしまい」の文字が書いてもらえずに迷子になったお話、つまり物語の種を集めて、雨を使って本に仕上げていくのが仕事ですが、近ごろなぜかうまく本に育たない種ばかりなのだというのです。

フルホンさんに依頼されて、ルウ子は、夢の力を使いながら「ほっぽり森」に調査に入ることに。幸せの青い鳥の化身・ホシ丸くんも一緒です。物語の種が育つ森には、夢を食べるバクが、それに、自分の大作を書き上げる前に死んだ作家の幽霊が、森を荒していました。

犯人を突き止めたルウ子たちはついに事件を解決。ルウ子も青い自分の物語の種を見つけます。その種は、妹サラが生まれたときにサラのために書いておきながら、忘れていたルウ子自身の物語の種でした。

憎らしいと思っていたはずの、サラのよろこぶ顔を思い浮かべながらルウ子は、不思議な「雨ふる本屋」を後にします。

 

この本の作者は、まだ若い30代の日向理恵子さん。本や物語を大切に、楽しい冒険の旅に出るルウ子ちゃんに共感する子どもたちから高い評価を受けたようです。

新人ながら、たちまち版を重ね、『雨ふる本屋の雨ふらし』『雨ふる本屋とうずまき天気』と一躍人気シリーズになってしまいました。

子どもたちが本来宿している「物語・ファンタジーの楽しさ」を掘り起こし、本の楽しさすばらしさを、もっともっと広げていっていただきたいとこれからのご活躍に大いに期待しています。

『暗幕のゲルニカ』 原田マハ著 新潮社刊

ピカソの作品「ゲルニカ」は世界で最も有名な絵画のひとつでしょう。

1937年4月、スペイン内戦でフランコ反乱軍を支援するナチスドイツがスペインバスク地方の中心都市ゲルニカを無差別空爆。その惨状を主題にピカソが制作したことはあまりにも有名です。

パリ万博で公開された後、ゲルニカは、独裁者フランコが死去してスペインが民主制へ移行する1980年代まで、ニューヨーク近代美術館に保管され、スペインに帰ることはありませんでした。

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この物語では、父の赴任先ニューヨークで幼いころに見たゲルニカに衝撃を受けた主人公・瑤子が、美術史を学びついにニューヨーク近代美術館にキュレーターとして勤務。マドリードで出会った夫イーサンと幸せに暮らしているとき、2001年911日アメリカ同時多発テロ事件が発生し、愛する夫イーサンを失います。

アメリカはその後、アフガニスタンを空爆。さらにイラク戦争へ突入しようとするとき瑤子は、決意します。

いまやるべきピカソの展覧会は何か、ピカソがアートの力で、いかに不条理な武力行使と戦ったかということを検証する「ピカソの戦争」以外にない、と。

しかし、ゲルニカを借り出そうとする瑤子の取り組みは困難を極め、その間に、国連安保理ではイラクへの武力行使が決議され、バグダッド空爆がなされようとするとき、国連安保理議場ロビーで記者の囲み取材を受けるアメリカ国務長官の背後のゲルニカ・タペストリーには何と暗幕がかけられていた。これは一体誰の仕業なのか、そして門外不出の絵画ゲルニカは借り出せるのか、後半は、ゲルニカ奪還をめざすテロ組織「バスク祖国と自由」の参入も加わり、一挙にサスペンス仕立てとなって物語は進みます。

そしてついに実現した特別展「ピカソの戦争」。開催に当たって、館長がスピーチします。「ピカソいわく、芸術は、決して飾りではない。それは戦争やテロリズムや暴力と闘う武器なのだ、と。」

 

この本の著者・原田マハさんは、ゲルニカがアメリカで展示され続けていたニューヨーク近代美術館に、実際にキュレーター(美術館などで展覧会などを企画する権限と専門性を備える管理職学芸員)として勤務した経歴をもつ美術の専門家でもあります。

女性関係に揺れ動いていたピカソが、ゲルニカ空爆を機に、パリのアトリエで渾身の作品を制作する過程を、愛人で写真家のドラの目を通して描く部分を章ごとに織り込みながら、空爆へのピカソの怒りと、アメリカのイラク空爆を前に、絵画ゲルニカに込められた現代的な意味をも描いた作品となっています。

 

いままたトランプ大統領の過激で挑発的な言動と、北朝鮮の愚行が、朝鮮半島での戦争を想起させるという不穏な世界にあって、私たちもゲルニカにかけられた暗幕を取り払って、改めてピカソの描いた戦争の画面を見つめ直す必要がありそうです。

 

 

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