
「大人の本: 2017年1月」アーカイブ
『風花帖』 葉室麟
江戸時代後期の文化 年に起こった小倉藩のお家騒動いわゆる「白黒騒動」を題材に、直木賞作家・葉室麟さんが書き上げてくださったのが、本作品『風花帖』(2014年)です。
昨年10月には、朝日新聞出版から文庫版として刊行されました。解説は、わが北九州市立文学館・今川英子館長が書いておられます。

主人公の小倉藩勘定方・印南新六は、風采は上がらないが夢想願流という武道の達人。あるとき結婚を許されるはずだった吉乃が上級武士に襲われかけるのを阻止、御前試合でその相手の肩を打ち砕いて三年間の江戸城詰めになります。
戻ってくると、吉乃はすでに婚約、祝言を上げることになりますが、新六はかつて「生涯をかけて吉乃を守る」誓いを履行。藩内を二分するお家騒動に翻弄される吉乃の婚家・菅源太郎氏の側に立って奮闘していきます。
最終的には自害を余儀なくされる新六。しかし、それは今は人妻となったひそかに愛する吉乃をひたすら守るための覚悟の末の行動でした。
雪が風花となって舞う中、自害した新六を前に吉乃は立ち尽くします。
小倉城は1602年に、戦国大名・細川忠興が築城し、細川氏の肥後移封後は、1632年に譜代大名・小笠原忠真が封入。以後、幕末まで小笠原氏の居城でした。
この間、約260年にわたる歴史と文化が蓄積されてきたはずでしたが、1866年に長州藩との戦闘で劣勢となり、小倉藩が小倉城を自ら焼失させて退却したことから、様々な歴史的資料が失われたと考えられています。
また、自ら城を焼いて逃げたというイメージが、小倉の人々にはどこか負い目となったのか、戦後、天守閣が再建(正確な復元ではありませんでしたが)された後も、誇るべき「小倉城の歴史と文化」を前向きに評価し再発見する動きはあまり強くならなかった感があります。
でも、いまやその方向を転換する時がきました!
かつて小倉城は独特の唐造りの天守閣を頂く「天下の奇城」でした。
宮本武蔵や佐々木小次郎が出入りし、歌舞伎の題材にもなりました。
城内には九州探題として特に許された沢山の桜の木がある「桜の城」でしたし、御遊所としての御花畑もありました。
小倉城を舞台に、作品に取り上げられた「お家騒動」をはじめ、様々な出来事や市井の人々の生活がありました。
小倉城にまつわる歴史や文化を改めて発掘し、市民の誇るべき資産として理解・活用することは、いま大変意義のあることだと私は考えています。
そんな中、江戸時代の小倉藩での「白黒騒動」を題材に、ひたむきな愛を描いた葉室麟さんの作品が文庫版で登場しました。大変ありがたいことですし、市内外の多くの方々にお読みいただけることを願っています。
葉室麟さんは、これまでの作品の中で、死を賭してひたむきに生きる武士の姿を様々に描いて、高い評価を受けてきました。(本HPでも『秋月記』のご紹介をしています。)
今川館長が解説で指摘されているように、葉室さんは小倉のご出身。これは葉室版の無法松の一生(『富島松五郎伝』)なのではないか。葉室さんはいつか松五郎のようなひたむきな無償の愛を描きたかったのではないか。そんなことを考えながら、この作品を楽しむこともできるのではないでしょうか。
(朝日新聞出版)
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